坂口安紀『ベネズエラ』中公選書、2021年

本書は、今のベネズエラの混迷をチャベス政権から考えていく。

 ベネズエラは従来は民主主義が機能していて、政権交代が機能するなど軍事政権が台頭した中南米では模範とみなされてきた。しかし従来の政党政治での政治汚職などにより政治不信が高まると、政治家でないチャベスが大統領の地位を勝ち得た。

 当初は外資を誘致するなどの現状のベネズエラ政権から想定されないような政策も採用した。自分たちの支持基盤を固めるため、政策の実行スピードを速めるために、チャベス政権が従来の立法や行政プロセスを無視するようになると、石油価格などが好調なうちは支持を調達できたが、石油価格が停滞すると批判がない中で改善がされず、また海外や軍部の支持を獲得するために、人々の生活が顧みられなくなっていった。

そうした姿勢は人々の不満を買うが、その不満を弾圧や生活支援物資などで断ち切ろうとするために、より政権側は強硬な立場を強めていく。こうした悪循環が繰り返されているのが、今のベネズエラである。

 チャベス政権のスピーディーさは、人々の変わらない生活からの期待が基盤としてあったが、そのスピーディーさは従来の政治体制を打ち崩すことで生まれていった。

基盤がガタガタになってしまったため、従来であれば採用されないような弥縫策が行われ、よりその基盤が侵食されていく。

スピーディーな政策決定は、官民問わず現代では称揚されている。

しかし、それがハイリスクであることはきちんと認識して選択をしないといけないであろう。

山本昭宏『戦後民主主義』中公新書

3月は社会人になってからずっとバタバタしている。

全然本が読めない。けど、年始はどの出版社も力を入れて面白い本を出すものだから、どんどん帳尻が合わなくなっている。

 

本書は、日本で第二次大戦後、戦後民主主義がどのように扱われ、語られてきたかを当時の文化などからも多面的に読み解くものである。

 

戦後民主主義という言葉は、肯定でも否定でも使われる。非常に幅の広い言葉である。それは当時の言論環境を反映していく。今は戦後民主主義は、否定的な意味合いが強くまとわりついている。これは仕方のないことだろうし、必ずしも悪いことではないと思う。

民主主義の定義自体はおそらく変わっていないはずなのに、それを含む言葉の価値がここまでぶれるのは面白いと思った。

1月と2月読んだ本の話

 年始は目標を作りたがる。今年の目標は、読んだ本の感想を書くことだった。

2月の下旬となり、早速その目標が頓挫しようとしている。

 

これはいけない。

そう思って、誰にも読まれないブログに今まで読んだ本の感想を書くことにした。

 

①空井護『デモクラシーの整理法』岩波書店、2020年

 本書はデモクラシーという制度をどのように活用しそこでふるまうべきか、筆者の理解を基に説明した本である。

 本書は圧倒的に読みやすい。使う単語はやや独特だが、そこに違和感を感じずにすらすらと読める。けど、それは筆者の主張がありきたりのものだからではなく、その論の立て方が見事だからである。これを読んだとき、柄谷行人の本を読んだ時と同じ気分を感じた。論の立て方が見事過ぎて読みやすいけど、咀嚼できてないのだ。

本当は何度も読み返すべきだろうが、他にも面白い本はいっぱいある。なかなか結論はつかない

 

津村記久子『この世にたやすい仕事はない』新潮文庫、2018年

 題名がぐっときて買って、自分の直感を信じてよかったと思えるいい本。

形式は連作小説で、主人公が前職を辞め、様々な仕事に取り組む様子が描かれている。

小説は大きな嘘があっても、所々に真実があると、本にぐっと近づいて読める気がある。

(小説ではないが、「シン・ゴジラ」はゴジラが突拍子がなくても、ゴジラに対処する政府のやり取りに真実味を感じた)

この本は、入り口は現実味があっても、主人公が取り組むのは、新興宗教に対抗するため、ポスターを住宅地に貼る仕事など、なんだか非現実的ではと思ってしまう仕事が多い。しかし、そうした仕事の中でも、主人公が仕事に急に入れ込む場面や、職安の相談員の「あなたは仕事に愛憎を持ち込んではいけない」という表現は、共感を感じてしまう。

真実とうそのバランスが上手で、読んで仕事を頑張ろうとは思わないが、なんとか生きていけそうとは思える本だった。

 

③野添文彬『沖縄米軍基地全史』吉川弘文館、2020年

 本書はその名の通り、沖縄米軍基地の形成とその展開をたどった本である。

本書は全史であることを意識して、大きな流れを見せることを大切にしている。それが見事に成功しているように思える。

印象に残るのは、アメリカ側が基地の撤去を検討した際に、日本の本土側はそれを拒否しようとするのである。基地がアメリカから見捨てらないと内外に示すポイントであることは分かるが、本土への基地移転は峻拒するなど、沖縄への押し付けが読みとれる。

もう1つは、本土側が沖縄側の要求をその場しのぎで対応しようとしている点である。例えば、辺野古移設の沖縄側の条件とした内容をアメリカ側と協議したと見受けられないところである。もちろん、外交機密もありすべてが公になるのはまだ先だろうが、上記の内容が事実なら、こうした対応は姑息である。また選挙のたびにそれを民意として、基地再編に押し進むのは乱暴と思える。本書を読むと、沖縄の人々は基地形成からの長い歴史を受け止めたうえで、判断をして欲しいと感じられる。一方で現政権からは、選挙のスパンで、意見を決定しようとしている。時間軸がずれているように思えた。

 沖縄の意識調査では半数以上が基地の存在を認め、日米安保を評価している。政府側が沖縄に提示すべきは現金ではなく、これまでの経緯に基づいた物語ではないか。

 

④服部聡『松岡洋右と日米開戦―大衆政治家の功と罪』吉川弘文館、2020年

 本書は松岡洋右の活躍と日米開戦までの流れを描写したものである。松岡洋右が、自身の支持基盤を大衆に置きながらも、大衆の好戦的な流れには一線を画すなど、戦前の政治家でなければできない特異なスタンスがよくわかる。また彼の思惑が外れ、戦争へ突き進む過程が簡潔に書かれていて、普通に参考になった。

本書で内容を超えて気になるのは筆者の経歴である。1968年生まれで博士号を取得。職歴には大阪大学非常勤講師とある。ということはまだ常勤の仕事がないということなのか?(ご本人の周辺環境など、全くわからないので、憶測でしかない)

大学で研究者として職を得るのは、今非常に難しいことは承知している。もし、まだ筆者が常勤の仕事を探しているのであれば、非常に寂しい事態である。

 

⑤佐藤千登勢『フランクリン・ローズヴェルト中公新書、2021年

 本書は、文字通りフランクリン・ローズヴェルトの人生をたどった本である。

ローズヴェルトの生涯は非常に評価をしていくのが難しい。大恐慌と、第二次大戦を率いて成功を収めたという事実と、それを達成するために前例にとらわれない様々な手法を採用し、その一部は明らかに禍根を残しているという事実をどう整合するのかが問われるからである。(禍根を残した例は、最高裁判所への介入の試みとか)

また、第二次大戦前の大統領の在り方は、今と非常に異なっていることを気づかされる。例えば盟友となるチャーチルローズヴェルトは1941年まで直接会っていない。またローズヴェルトの奔放な女性関係は、今なら格好のスキャンダルだったであろう。

 

青木祐子『これは経費で落ちません!』集英社オレンジ文庫、2016年

 昼飯時に、のんあるびり読める本が欲しいと思って読んでよかった本。

主人公と同い年である、私はスマートな主人公の仕事との向き合い方に憧れてしまう。(仕事のモチベーションの半分が怒りと、もう半分が上司への尊敬の念である自分にとって)

この本を買って、続編あるのかと思って調べてみたら多部未華子主演でドラマになっていた。このドラマの多部未華子はすごいかわいかった。