君塚直隆『王室外交物語』光文社新書、2021年
本書は王室が生まれた古代エジプトから現代の王室までの外交、対外関係の構築の仕方をエピソードを交えつつ描いている。
まず、本書はエリザベス女王がモロッコやベルギーでの接遇に対して不満をもって、勲章やその後の訪問などに濃淡が出るようになったといった面白い内容をちりばめることで本当に物語のように読みやすくしている。
次に、本書では外交は対等な関係であるとお互いに了解してから始まるということが強調される。確かに、中国王朝の華夷秩序などは交流の側面はあるが、あくまで中国が主人であることがポイントとなっている。国家の相互承認など外交が当たり前になったのはかなり近年ということがよくわかる。
最後の王室の効用である。現在中東の諸国を除けば、王室が外交の実質の権限を有することはない。あくまで国際親善などの政策変更をもたらさないものに限定される。
しかし、王室がその国を訪れる、返礼がある裏には外務省などの権限を有する人々が交渉を行うといったことがある。王室の存在はそうしたハードの部分をカモフラージュする、また公式の政治の中で伝えられないことを示唆するソフトの役割ある。具体的にはブレクジットでの王室のヨーロッパ各国の訪問や、平成天皇の戦没地への訪問が挙げられる。
王室外交は上記の通りあえて言えば有用性があるが、王室の属人的側面も大きく、リスクを孕んでいる。エリザベス女王の勲章の濃淡はエリザベス女王の在位歴などから問題とならないが、1つ間違えればイギリスとベルギーの関係を悪化させる要因となろう。実際にスペインやタイの王室などは、その在り方について批判がされている。
日本には天皇という存在があるが、それのありがたさ、責務というものを考えさせてくれるように思う。