坂口安紀『ベネズエラ』中公選書、2021年

本書は、今のベネズエラの混迷をチャベス政権から考えていく。

 ベネズエラは従来は民主主義が機能していて、政権交代が機能するなど軍事政権が台頭した中南米では模範とみなされてきた。しかし従来の政党政治での政治汚職などにより政治不信が高まると、政治家でないチャベスが大統領の地位を勝ち得た。

 当初は外資を誘致するなどの現状のベネズエラ政権から想定されないような政策も採用した。自分たちの支持基盤を固めるため、政策の実行スピードを速めるために、チャベス政権が従来の立法や行政プロセスを無視するようになると、石油価格などが好調なうちは支持を調達できたが、石油価格が停滞すると批判がない中で改善がされず、また海外や軍部の支持を獲得するために、人々の生活が顧みられなくなっていった。

そうした姿勢は人々の不満を買うが、その不満を弾圧や生活支援物資などで断ち切ろうとするために、より政権側は強硬な立場を強めていく。こうした悪循環が繰り返されているのが、今のベネズエラである。

 チャベス政権のスピーディーさは、人々の変わらない生活からの期待が基盤としてあったが、そのスピーディーさは従来の政治体制を打ち崩すことで生まれていった。

基盤がガタガタになってしまったため、従来であれば採用されないような弥縫策が行われ、よりその基盤が侵食されていく。

スピーディーな政策決定は、官民問わず現代では称揚されている。

しかし、それがハイリスクであることはきちんと認識して選択をしないといけないであろう。